2012年11月23日金曜日

痙性麻痺を脊髄からみる

脳卒中になった場合には痙性麻痺を呈するというのは養成校でも習う話で、私自身も学生には上位運動ニューロン障害では痙性麻痺、下位運動ニューロン障害では弛緩性麻痺という事を学生には基本として教えています。

しかし、上位中枢からの抑制が効かなくなって、脊髄レベルの興奮性が上がる事によって筋緊張、伸張反射も亢進するなどと言われていますが、脊髄レベルで何の抑制が効かなくなっているのか?

それはシナプス前抑制、シナプス後抑制、交叉性抑制、Post-activation depressionなどが脳卒中においては抑制系システムとして効かなくなっているとは言われていますが、回復とともに脊髄レベルで何が起こっているのかはまだはっきりとは分かっていないようです。



Impaired efficacy of spinal presynaptic mechanisms in spastic stroke patients
Brain132 (3): 734-748.



http://brain.oxfordjournals.org/content/132/3/734.long

こちらの研究ではシナプス前抑制とPost-activation depressionに関して、筋緊張、麻痺側と非麻痺側、急性期と慢性期の違いなどの検討がされています。
シナプス前抑制は非麻痺側において、急性期に抑制が効かなかったものが慢性期になると健常者と同じ水準まで回復します。おそらく非損傷半球の影響や脳の可塑性によるもののようです。
Post-activation depressionは筋緊張の程度と関連していて、Ashworth scaleが低いほど抑制が効いています。

難しい話になりましたが、脊髄レベルで抑制を考えるというのは上位中枢からのコントロールを反映している訳で、もし麻痺の回復との関連が明らかになれば、抑制を高めるような治療法が有効であるという根拠になると考えています。

私自身は脳が好きですし、脳科学の知見は多いにリハビリテーションに役に立つと思っています。しかし、脳ではなくそこからの遠心性入力を受けている脊髄に着目するというのも面白いのではないかと思い、治療法の開発との関連も含めて今週末の体力医学会地方会で発表してみます。まだまだ粗い基礎データですが、新たな視点になればと思っています。

2012年11月7日水曜日

iPad

iPadを買ってみました。いや、正確には研究費で買っていただきました。
研究仲間たちがiPadを使って研究までしているのを眺めていて、そんなに使えるものであれば欲しいという思いと、学生教育にも有効ではないかということ、運動観察の学習効果の研究にも使えるのではないという様々な思いでした。

ただ、買う前に懸念していたのが.....



私は通常ローマ字入力ではなく、かな入力をしているのです。



しかし、そこは天下のApple社 普段使っているMacBook Airでもかな入力しているし、ものすごい数あるアプリの中で、かな入力を補助してくれるものがあるだろうと思っていました。


しかし、買った後にその考えは甘いということに気付きました...
やはり出来るのはローマ字入力のみで、かな入力をするにはあいうえお順のキーか外付けキーボードしかなかったのです。


結局は使い分けが必要ということで落ち着きました。論文などの書く作業をする時は断然MacBook Airの方が早いので、それを使い、読んだりや調べる作業をする時はiPadというようにしています。
初めっからノートPCだけで良かったのではないかと思われるかもしれませんが、大量の論文を手軽に読めますし、発想をiPadでまとめた上で本格的に書く時はノートPCという使い分けも出来ます。

あと、海外のジャーナルの中にはアプリを入れると過去1年くらいは無料で読めるものもあり、これは便利なので手放せません。American Journal of Physical Medicine and Rehabilitationなども読めるので、かなりお手軽です。

これからいろいろとアプリを発掘していって、講義や研究にも使っていきたいですね。

ちなみに誰かかな入力システムを開発してくれれば、iPadだけで生活できそうなんだけど...

2012年10月20日土曜日

学部ゼミ活動

更新しないとと思いながら、かなりの時間が経ってしまいました。
本来であれば研究室の活動と文献紹介が目的なので、活動報告を。

現在4年生の学部ゼミでは卒論完成に向けて最後のデータ処理活動、3年生は実験開始と賑やかになっております。
3年生のゼミでは私のもともとの興味でもあるAction Observationによる運動の変化をかなり進化させた研究を行っています。

Visual and auditory stimuli associated with swallowing: an FMRI study.

Bull Tokyo Dent Coll. 2009;50(4):169-81.
嚥下の映像や音を聞かせると一次運動野、運動前野などが活動しているという論文で、まだちゃんと読めていませんが、最近のDysphagia誌にも同様の刺激でミラーニューロンが活性化するのではないかという論文があります。
その結果をもとに実際の嚥下ではどうなのかということを、研究しています。うちの大学には歯学部も言語聴覚学科もないので嚥下造影をするわけにはいかないのですが、非侵襲的に口腔~咽頭期を評価する試みを行っています。
他人が美味しそうに食べている映像を見ることによって、唾液分泌だけでなく、嚥下も変わるのかというテーマで実験を行っています。学部生が私が思いつかないような発想を出してくれるので面白い研究になっています。


2012年7月17日火曜日

各種テクニック、アプローチについて

本日は理学療法の日です。

理学療法についてというわけではないですが、少し考えていることがあります。
私は大学に勤務していますが、週に1日は臨床で勤務させていただいていまして、現職者の指導なども行っています。もちろん私が教わることも多いのですが...

さて、理学療法士をしばらくやっているとアプローチに関して、何らかの好き嫌いというのが出てくる方も多いかと思います。テクニックと言われるものから考え方(コンセプト)自体というのもあります。認知運動療法の考え方が好き、PNFはあわないなど(例えばの話で、別に悪口を言っているわけではないのであしからず)。

かくいう私も何が合わないなどと言ってしまうと角が立ちますが、合う合わないは何となくあります。今はTask Orientedだったりとか運動学習が介入の考え方の主体になっていますが、昔教え子たちにとある促通コンセプトを批判的に言ってしまったこともあります。
しかし、今思うとそのアプローチの何が気にくわなかったのか、表面的なことしか知らなくて批判していたのではないかと思います。

結局は、本当に批判したいならば、そのテクニックや考え方をとことん学んで、出来るようになった上でやっぱり自分には合わないとか対象者に応用できないなどと言わないとダメでしょう。

ある特定のテクニックに固執すると他が見えなくなりがちです。対象者にとってベストな介入を探すことより、高い講習会費を払ったテクニックで対象者に効果がありそうなものは何かという、テクニックを無理やり適応させることに走りがちです。

経験年数が浅いセラピストは余計に顕著でしょう。

講習会や先輩がファシリテーションすると、今まで全然動けなかった対象者が嘘のように疼痛もなくなって動作が可能になったのを目にすると、そのテクニックが全てを解決してくれるように誤解しがちです。そして適応も見極めないまま、全ての対象者に使用しようとします。
機能にばかり目が行ってしまい、生活を見れなくなっているセラピストを私自身目にしたこともあります。

一つのことを突き詰めることは悪いことではないと思っていますが、他がダメだと言う前に他の考え方をとことん知った上で批判してほしいと思っています。

意外と人との関係も、よく知らないで批判していることが多いんじゃないでしょうか(自分への反省も込めて)。

2012年6月8日金曜日

ほとんど手動傾斜台

なかなか更新していないと、再び書き込むのが大変になってくる。

さて、先日東京の専門学校に勤務していた時に研究のお手伝いをしていた研究者から電話があった。その方は運動生理学の専門家で、今も私が誘発筋電図を用いた研究を行っているので時々連絡をして相談させてもらったりしている。

電話の内容は、その方の研究で使用していた半自動傾斜台が不要になったので、そちらで必要であれば譲っていただけるとのことであった。半自動傾斜台とは要するにリハビリテーションで使用しているティルトテーブルのようなものである。それが半自動というところがミソで、勝手に横になったり直立したりするのではなく、操作者の力加減でどのようなスピードでも動かせるというものである。反対を言うと、微妙な力加減が必要で、勝手に動かないぶんだけ操作者がずっとレバーを握り続けないといけないのであるが... そうなると半自動というように自動を強調するのではなく、半手動傾斜台と言った方がいいかもしれない。しかも、大きすぎて搬入の際にエレベーターに乗らないかもしれないという...

しかし、自作しても購入しても安いものではないし、その方と共通の知人である他学科の先生とも相談し、出来ればいただきたいという方向になった。

大学院生時代にバランスボードや傾斜台の研究にはまり、Verticality(身体垂直認知)の勉強もしたので、また再燃させようかな。最近、布団に入ってから思いついたのだが、他動的な立位姿勢での覚醒レベルの変化をVerticalityとの関係性から研究してみようとも思ったりするが、嚥下の研究と科研費採択された脳卒中の研究を一段落させてからだな。先は長い。

とりあえず、大学に到着したら写真をアップします。

2012年4月24日火曜日

舌骨上筋群への電気刺激

脳損傷後の嚥下障害の患者に対して舌骨上筋群に電気刺激を行って回復効果をみる研究がありました。
Electrical Stimulation of the Suprahyoid Muscles in Brain-injured Patients with Dysphagia: A Pilot Study
Ann Rehabil Med. 2011 June; 35(3): 322–327
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3309209/?tool=pubmed

脳損傷後とくくっているのは、脳卒中26名と頭部外傷2名が入っているからです。対象者を電気刺激を併用する群と通常の嚥下障害に対する治療を行う群に分け、1日30分、週に5日を4週間行って両群の比較をしています。
Fig. 1

電極を貼る場所はで舌骨の両端と顎の中間地点、基準電極は両側の下顎骨の縁と顎の中間地点です。

An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is arm-35-322-g002.jpg Object name is arm-35-322-g002.jpg

評価はVideofluoroscopic dysphagia scale (VDS)とASHA NOMS swallowing scale (ASHA level)で嚥下障害の改善を見ています。

結果としてはESSM(電気刺激)もCDM(通常の嚥下障害の治療)も差がないという結果になっています。今回は電気刺激群が7名に対して、通常治療群が21名ですから、著者ももう少し電気刺激群を増やして研究を行っていきたいと述べています。

舌骨上筋群の筋電図の研究を私も行っておりますが、高齢者で下顎の皮膚にたるんでいる方などは計測がしづらく、電気刺激にしても筋までの距離が遠くなるので抵抗が増えるのではないかと思います。更に脱脂もしづらい場所なので、皮膚抵抗もある程度あるために電気刺激した時の不快感や疼痛が出現しやすいのではないかと浅い経験ながら思っています。あと、舌骨上筋群だけの問題ではなく、協調性や輪状咽頭筋なども関わってくるので、電気刺激は難しいのではないだろうかとも思います。

2012年4月14日土曜日

見本を見せる

研究の解析などで忙しいと更新が止まってしまいます。
4月も半ばに入り、新人が少しずつ慣れてきたり、臨床実習も本番になる頃です。

ところで、運動イメージの研究として動作観察を用いた研究などもあります。脳卒中に対して正しい運動を視覚的に教示して、正しい運動イメージを起こさせようとする研究です。

Action observation has a positive impact on rehabilitation of motor deficits after stroke.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=action%20observation%20ertelt

論文の内容紹介はまたの機会にしますが、研究のみならず見本をちゃんと視覚的に示すということは重要ではないでしょうか。新人や実習生に「何度言っても覚えない。」とか「言うことを聞いてくれない。」という前に自分がやってみせているでしょうか? 対象者に向かう姿勢などで見本になっているでしょうか?

学習の初期段階は視覚的教示をしっかり行い、学習が進んでくれば学習者が模倣し、フィードバックを付加していくというのが運動学習では良いと言われています。運動に限らず、スキルを身につける学習では全般的にそうでしょう。「何度言っても覚えない。」のではなく、「何度も口でしか言ってないから覚えない。」ということもあります。

そして、学生や新人にとってみれば、見本も見せられない人の話は聞きたくはないでしょう。若い頃の武勇伝や苦労話を聞かせるよりも今自分が見本になり得るのかを考えましょう。そして、そんなに自信が無いのであれば、愚痴を言う前に自分から変わっていきましょう。先輩のがんばる姿を見せれば変わるかもしれません。私も教員ではありますが、理学療法士としての見本を示せる教員でありたいとは思っています。もちろん臨床で活躍しているセラピストにはかないませんが・・・。見せられる背中でいたいものです。

2012年4月1日日曜日

斜めに寝るのは認知障害のサイン?

私は一応研究活動を行っていますが、まだまだ他の先生方に比べて未熟なところが多くあります。しかし、臨床のスタッフに研究に積極的にトライしてもらいたい気持ちは強く、学生、臨床スタッフに研究の話をする時によく取り上げる論文があります。

Lying obliquely—a clinical sign of cognitive impairment: cross sectional observational study
 BMJ 2009;339:b5273

ベッド上で座位からまっすぐ寝てくださいと指示して臥位をとらせた時に、ベッドの軸とどの程度の変位があるかを対象者の上から撮った写真で分析しています。その角度とMini-Mental State Examination(MMSE)、Dem Tect、時計描画テストとの関連を見ています。また、23名の神経専門の医師に0°から15°までの斜めになった臥位を見せて、何度からが主観的に斜めに寝ていると感じるかも聞いています。

結果として、年齢を考慮した相関係数はMini-Mental State Examination, r=–0.407、DemTect, r=–0.444; 時計描画テスト, r=–0.467となっています。 また、医師が主観的に斜めだと判断するのは7°からとなっています。7°を基準として他の認知機能テストとの関連でみると、特異度89% ~ 96% 、 感度 27% ~50%となっています。

靴をはいたまま臥位になったせいで斜めに寝ている対象者に関しては除外しています。この結果から、面倒くさいわけではなく、自分でまっすぐと感じているにも関わらず斜めに寝ている対象者に関しては身体軸のずれが示唆され、認知障害のサインになるのではないかということです。

この結果も興味深いのですが、私が研究方法でこの論文を紹介するのは内容が日々感じている臨床の疑問と直結しているからです。斜めに寝ている対象者を見れば認知機能は大丈夫なのかなという印象を何となくは誰しも抱いています。その印象、疑問を検証していく手段が研究だと思っています。研究に取り組んだことのないスタッフは、研究は特別なものであると思いがちです。しかし、日々の臨床の疑問に関しても正しくデザインを組み、検証していけば立派な研究になっていきます。この研究に関しても臥位をとらせる時の指示や天井にまっすぐの手かがりとなるものがあったのかという疑問は私にもありますが、世界的に権威あるBMJに掲載されている立派な論文です。

研究は甘く見てはいけないし、私もまだまだ勉強しなければいけないことは多いですが、自分の思考を検証するため、そして何より対象者のために研究に取り組んでいただきたいと思います。

2012年3月30日金曜日

Pusher Syndromeの座位での下腿の位置

Pusher症候群(症候群でないとも言われていますが、原文がSyndromeなのでとりあえず)の方の体幹垂直認知に関しては麻痺側に傾いているという報告もあれば、非麻痺側に傾いているという報告もあります。

最近の報告ではありませんが、2006年の論文を紹介します。

"Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome"
BMC Neurology 2006, 6:30 
 
この研究は体幹のPusher症候群の自覚的な体幹鉛直軸(SPV)に関して有名なKarnathらのものです。既に彼らは別の実験でPusher症候群の体幹鉛直軸は非麻痺側に20°近く傾斜していると報告しているのですが、別の方向からの見方をこの論文ではしています。
 
オープンアクセスになっていても図表をブログに転載しても著作権上で問題ないのかの判断が分からなかったので、転載しないでで説明させていただきます。
 
この論文のタイトルを日本語にすると「Pusher症候群の臨床的なサインとしての下腿の位置」とでも訳しましょう。研究の内容はPusher症状のある脳卒中患者、ない脳卒中患者、急性片側性前庭疾患患者、脳障害のない対象者に対して、足底非接地の座位をとらせ、他動的に体幹を左右に傾けた時の頭部、非麻痺側下腿の角度を測定しています。
 


普通、足底非接地の座位をとった場合は体幹も下腿も鉛直になるのが健常者です(左の写真)。余談ですが、息子です。右の写真は写真ごと傾いていますが、白の線が本当の水平線で、身体が傾いたと仮定します。そうすると、傾斜した体幹に対して重心を座面に残そうとして、下腿は身体と同じ方向に傾斜します(点線から実線に)。

しかし、Pusher症候群の患者では、鉛直な座位をとっている時から既に非麻痺側の下腿は非麻痺側に9°ほど傾斜(股関節外旋)しており、非麻痺側に体幹を傾斜させるとさらに非麻痺側に傾斜(股関節外旋)が大きくなるとのことです。Pusherを呈していない対象者はそのような現象は見られないようです。Pusher症候群の鉛直な座位での下腿の傾斜角度は、Pusherを呈していない対象者を15°非麻痺側に傾斜させた時に相当する角度の変化であり、これが自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜していることの説明になるのではないかと主張しています。

もともと、自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜しているということを主張しているKarnathなので、別の研究者から見れば違う解釈が出てきそうですが、Pusher症候群の現象としてとらえるのは悪くないと思います。論文で言われているように、ベッドサイドのスクリーニングなどで簡便に用いれそうですし、足底非接地の座位で、非麻痺側の下腿が傾斜している対象者を見たときはPusherを疑ってもいいかもしれません。普通の端座位ではそうでなくても股関節外旋するし、押し付けるので、足底非接地が重要です。

自覚的な体幹鉛直軸: 対象者が自覚的にまっすぐだと思っている体幹の傾きで、正常だとほぼ重力方向。
 

理学療法士国家試験

今日は理学療法士国家試験の合格発表でした。

 まずは合格したみなさん、おめでとうございます。これから理学療法士として新しいスタートをきってください。

 これから勉強していくことは自分のためというよりも、全て対象者に向いてきます。しなければいけないからするのではなく、何も出来ない自分に苛立ち、よりよい医療を提供するために勉強し続けてください。そして、問題意識を持って自分から学んでください。講習会、研修会に行き続けることを勉強しているとは言いません。学校で授業を聞いただけで勉強した気になっているのと一緒です。自分で考え、調べ、それでも分からなければ外に勉強会に出るということを習慣づけてください。

 残念ながら合格できなかったみなさん、今日が新たなスタートです。まだ、気持ちの整理がつかないかもしれませんし、受容できないかもしれません。しかし、理学療法士になることが出来なくなったのではありません。一年後は必ず、それもすぐにやってきます。すぐに新しいスタートを切らないと間に合わないと思ってください。来年が今年より合格率が上がる保証は何もなく、むしろ下がると予想している人は多いです。

 10年後に自分がどうなっていたいのかを描き、いまやるべきことを今日出た結果をもとに受験した方が考えてほしいと思います。

2012年3月28日水曜日

半側空間無視の世界

半側空間無視の対象者というのはどのような世界を感じているのでしょうか?

 重症の対象者の場合は同名半盲という視野の障害と合併してる場合も多いのですが、そうでない場合もあります。つまり、視野は保たれているけれど見えていない状態というわけです。半側空間無視は様々なメカニズムが考えられていますが、現在は空間性(方向性)注意の障害によるものと考えられています。空間性注意というのは簡単に言うと、意識を適切なところに集中させることが出来て、対象としたものに目や身体で行動を起こせるということです。目の前にハエが飛んでいれば、それを見て、場合によっては手で払いのけることが出来るということです。半側空間無視の場合は特に無視側(多くは左側)にそれが行いづらい状態というわけです。脳の右と左の半球(俗にいう右脳、左脳)でそれぞれ右側の注意とか左右両側の注意とか役割分担があるので、脳血管障害になると片側だけ空間性注意の障害が起こるというわけです。

 さて、ここから本題です。視野は保たれているのに、見えていないとはどういうことなのか? それを説明するのに健康な人の視野をおさらいします。
 両目で見ている視野は100°で、片側の目だけなら真横にあるものも見えていることになります。それでは、健康な人は食事をするときに必ず真横に何があるかはっきり分かって食べているでしょうか? また、真横から飛んできたボールは、視野には入っているはずですからよけられるでしょうか?
おそらく、無理ですね。真横どころか斜め前にある柱にぶつかることは健康な人でもあることです。
視野がこれほど広いにも関わらず、ぶつかることがあるのは、視野には入っている(見えている)けども脳で情報がカットされているということです。広く意識するよりも目の前にあるものに焦点を絞り、意識を集中させたほうが効率がいいからなのです。

 簡単に言いきれるものではないですが、半側空間無視では無視側の空間が見えているのに情報が伝達していない(カットされている)状態ということもできます。健康な人でも意識したり、目立つものがあれば視野の端のほうにも注意が行くように、半側空間無視のある方でも促すと気付く人もいます。それが見えているのに見えない状態ということです。

 健康な人が一日中常に真横に何があるか意識していなさいと言われたらどうでしょうか? 視野としては真横まであるのだから見えているでしょうと言われたら? おそらく、すごく疲れて集中力が続かないと思います。半側空間無視のある方に無視側に注意を向け続けさせることは私はそれと同じだと思っています。

 もやもや病で高次脳機能障害を抱える医師の山田規畝子さんは講演でこのように言われていました。「左側を忘れることがあるから注意しなさいと、食事の時などいつも言われていました。しかし、私にとって左側は存在しないのと同じだし、注意するのはすごく労力がいるので、そう言われるのが嫌だった。」半側空間無視のある方に無視側の注意を促すことは、リハビリテーションでよく行われていますが、それはどれほどの労力をその方が要しているのか、言われることに嫌悪感を感じていないかという視点はセラピストにとって無くてはならないと思っています。

 今日は私なりの半側空間無視の方に対する接し方を書いてみました。






2012年3月27日火曜日

ブログ開始

Twitter上では文字数が限られており、文献や活動紹介などはある程度の文字数をもって行いたいので、ブログを初めてみました。

ブログがあるということで、私自身も積極的に文献を読んだりして勉強するきっかけになれればと思います。脳血管障害から摂食・嚥下障害、セラピスト教育にわたるまで広く勉強していきたいと思います。