2012年4月24日火曜日

舌骨上筋群への電気刺激

脳損傷後の嚥下障害の患者に対して舌骨上筋群に電気刺激を行って回復効果をみる研究がありました。
Electrical Stimulation of the Suprahyoid Muscles in Brain-injured Patients with Dysphagia: A Pilot Study
Ann Rehabil Med. 2011 June; 35(3): 322–327
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3309209/?tool=pubmed

脳損傷後とくくっているのは、脳卒中26名と頭部外傷2名が入っているからです。対象者を電気刺激を併用する群と通常の嚥下障害に対する治療を行う群に分け、1日30分、週に5日を4週間行って両群の比較をしています。
Fig. 1

電極を貼る場所はで舌骨の両端と顎の中間地点、基準電極は両側の下顎骨の縁と顎の中間地点です。

An external file that holds a picture, illustration, etc.
Object name is arm-35-322-g002.jpg Object name is arm-35-322-g002.jpg

評価はVideofluoroscopic dysphagia scale (VDS)とASHA NOMS swallowing scale (ASHA level)で嚥下障害の改善を見ています。

結果としてはESSM(電気刺激)もCDM(通常の嚥下障害の治療)も差がないという結果になっています。今回は電気刺激群が7名に対して、通常治療群が21名ですから、著者ももう少し電気刺激群を増やして研究を行っていきたいと述べています。

舌骨上筋群の筋電図の研究を私も行っておりますが、高齢者で下顎の皮膚にたるんでいる方などは計測がしづらく、電気刺激にしても筋までの距離が遠くなるので抵抗が増えるのではないかと思います。更に脱脂もしづらい場所なので、皮膚抵抗もある程度あるために電気刺激した時の不快感や疼痛が出現しやすいのではないかと浅い経験ながら思っています。あと、舌骨上筋群だけの問題ではなく、協調性や輪状咽頭筋なども関わってくるので、電気刺激は難しいのではないだろうかとも思います。

2012年4月14日土曜日

見本を見せる

研究の解析などで忙しいと更新が止まってしまいます。
4月も半ばに入り、新人が少しずつ慣れてきたり、臨床実習も本番になる頃です。

ところで、運動イメージの研究として動作観察を用いた研究などもあります。脳卒中に対して正しい運動を視覚的に教示して、正しい運動イメージを起こさせようとする研究です。

Action observation has a positive impact on rehabilitation of motor deficits after stroke.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=action%20observation%20ertelt

論文の内容紹介はまたの機会にしますが、研究のみならず見本をちゃんと視覚的に示すということは重要ではないでしょうか。新人や実習生に「何度言っても覚えない。」とか「言うことを聞いてくれない。」という前に自分がやってみせているでしょうか? 対象者に向かう姿勢などで見本になっているでしょうか?

学習の初期段階は視覚的教示をしっかり行い、学習が進んでくれば学習者が模倣し、フィードバックを付加していくというのが運動学習では良いと言われています。運動に限らず、スキルを身につける学習では全般的にそうでしょう。「何度言っても覚えない。」のではなく、「何度も口でしか言ってないから覚えない。」ということもあります。

そして、学生や新人にとってみれば、見本も見せられない人の話は聞きたくはないでしょう。若い頃の武勇伝や苦労話を聞かせるよりも今自分が見本になり得るのかを考えましょう。そして、そんなに自信が無いのであれば、愚痴を言う前に自分から変わっていきましょう。先輩のがんばる姿を見せれば変わるかもしれません。私も教員ではありますが、理学療法士としての見本を示せる教員でありたいとは思っています。もちろん臨床で活躍しているセラピストにはかないませんが・・・。見せられる背中でいたいものです。

2012年4月1日日曜日

斜めに寝るのは認知障害のサイン?

私は一応研究活動を行っていますが、まだまだ他の先生方に比べて未熟なところが多くあります。しかし、臨床のスタッフに研究に積極的にトライしてもらいたい気持ちは強く、学生、臨床スタッフに研究の話をする時によく取り上げる論文があります。

Lying obliquely—a clinical sign of cognitive impairment: cross sectional observational study
 BMJ 2009;339:b5273

ベッド上で座位からまっすぐ寝てくださいと指示して臥位をとらせた時に、ベッドの軸とどの程度の変位があるかを対象者の上から撮った写真で分析しています。その角度とMini-Mental State Examination(MMSE)、Dem Tect、時計描画テストとの関連を見ています。また、23名の神経専門の医師に0°から15°までの斜めになった臥位を見せて、何度からが主観的に斜めに寝ていると感じるかも聞いています。

結果として、年齢を考慮した相関係数はMini-Mental State Examination, r=–0.407、DemTect, r=–0.444; 時計描画テスト, r=–0.467となっています。 また、医師が主観的に斜めだと判断するのは7°からとなっています。7°を基準として他の認知機能テストとの関連でみると、特異度89% ~ 96% 、 感度 27% ~50%となっています。

靴をはいたまま臥位になったせいで斜めに寝ている対象者に関しては除外しています。この結果から、面倒くさいわけではなく、自分でまっすぐと感じているにも関わらず斜めに寝ている対象者に関しては身体軸のずれが示唆され、認知障害のサインになるのではないかということです。

この結果も興味深いのですが、私が研究方法でこの論文を紹介するのは内容が日々感じている臨床の疑問と直結しているからです。斜めに寝ている対象者を見れば認知機能は大丈夫なのかなという印象を何となくは誰しも抱いています。その印象、疑問を検証していく手段が研究だと思っています。研究に取り組んだことのないスタッフは、研究は特別なものであると思いがちです。しかし、日々の臨床の疑問に関しても正しくデザインを組み、検証していけば立派な研究になっていきます。この研究に関しても臥位をとらせる時の指示や天井にまっすぐの手かがりとなるものがあったのかという疑問は私にもありますが、世界的に権威あるBMJに掲載されている立派な論文です。

研究は甘く見てはいけないし、私もまだまだ勉強しなければいけないことは多いですが、自分の思考を検証するため、そして何より対象者のために研究に取り組んでいただきたいと思います。