最近の報告ではありませんが、2006年の論文を紹介します。
"Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome"
BMC Neurology 2006, 6:30
この研究は体幹のPusher症候群の自覚的な体幹鉛直軸(SPV)に関して有名なKarnathらのものです。既に彼らは別の実験でPusher症候群の体幹鉛直軸は非麻痺側に20°近く傾斜していると報告しているのですが、別の方向からの見方をこの論文ではしています。
オープンアクセスになっていても図表をブログに転載しても著作権上で問題ないのかの判断が分からなかったので、転載しないでで説明させていただきます。
この論文のタイトルを日本語にすると「Pusher症候群の臨床的なサインとしての下腿の位置」とでも訳しましょう。研究の内容はPusher症状のある脳卒中患者、ない脳卒中患者、急性片側性前庭疾患患者、脳障害のない対象者に対して、足底非接地の座位をとらせ、他動的に体幹を左右に傾けた時の頭部、非麻痺側下腿の角度を測定しています。
普通、足底非接地の座位をとった場合は体幹も下腿も鉛直になるのが健常者です(左の写真)。余談ですが、息子です。右の写真は写真ごと傾いていますが、白の線が本当の水平線で、身体が傾いたと仮定します。そうすると、傾斜した体幹に対して重心を座面に残そうとして、下腿は身体と同じ方向に傾斜します(点線から実線に)。
しかし、Pusher症候群の患者では、鉛直な座位をとっている時から既に非麻痺側の下腿は非麻痺側に9°ほど傾斜(股関節外旋)しており、非麻痺側に体幹を傾斜させるとさらに非麻痺側に傾斜(股関節外旋)が大きくなるとのことです。Pusherを呈していない対象者はそのような現象は見られないようです。Pusher症候群の鉛直な座位での下腿の傾斜角度は、Pusherを呈していない対象者を15°非麻痺側に傾斜させた時に相当する角度の変化であり、これが自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜していることの説明になるのではないかと主張しています。
もともと、自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜しているということを主張しているKarnathなので、別の研究者から見れば違う解釈が出てきそうですが、Pusher症候群の現象としてとらえるのは悪くないと思います。論文で言われているように、ベッドサイドのスクリーニングなどで簡便に用いれそうですし、足底非接地の座位で、非麻痺側の下腿が傾斜している対象者を見たときはPusherを疑ってもいいかもしれません。普通の端座位ではそうでなくても股関節外旋するし、押し付けるので、足底非接地が重要です。
自覚的な体幹鉛直軸: 対象者が自覚的にまっすぐだと思っている体幹の傾きで、正常だとほぼ重力方向。