2012年3月30日金曜日

Pusher Syndromeの座位での下腿の位置

Pusher症候群(症候群でないとも言われていますが、原文がSyndromeなのでとりあえず)の方の体幹垂直認知に関しては麻痺側に傾いているという報告もあれば、非麻痺側に傾いているという報告もあります。

最近の報告ではありませんが、2006年の論文を紹介します。

"Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome"
BMC Neurology 2006, 6:30 
 
この研究は体幹のPusher症候群の自覚的な体幹鉛直軸(SPV)に関して有名なKarnathらのものです。既に彼らは別の実験でPusher症候群の体幹鉛直軸は非麻痺側に20°近く傾斜していると報告しているのですが、別の方向からの見方をこの論文ではしています。
 
オープンアクセスになっていても図表をブログに転載しても著作権上で問題ないのかの判断が分からなかったので、転載しないでで説明させていただきます。
 
この論文のタイトルを日本語にすると「Pusher症候群の臨床的なサインとしての下腿の位置」とでも訳しましょう。研究の内容はPusher症状のある脳卒中患者、ない脳卒中患者、急性片側性前庭疾患患者、脳障害のない対象者に対して、足底非接地の座位をとらせ、他動的に体幹を左右に傾けた時の頭部、非麻痺側下腿の角度を測定しています。
 


普通、足底非接地の座位をとった場合は体幹も下腿も鉛直になるのが健常者です(左の写真)。余談ですが、息子です。右の写真は写真ごと傾いていますが、白の線が本当の水平線で、身体が傾いたと仮定します。そうすると、傾斜した体幹に対して重心を座面に残そうとして、下腿は身体と同じ方向に傾斜します(点線から実線に)。

しかし、Pusher症候群の患者では、鉛直な座位をとっている時から既に非麻痺側の下腿は非麻痺側に9°ほど傾斜(股関節外旋)しており、非麻痺側に体幹を傾斜させるとさらに非麻痺側に傾斜(股関節外旋)が大きくなるとのことです。Pusherを呈していない対象者はそのような現象は見られないようです。Pusher症候群の鉛直な座位での下腿の傾斜角度は、Pusherを呈していない対象者を15°非麻痺側に傾斜させた時に相当する角度の変化であり、これが自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜していることの説明になるのではないかと主張しています。

もともと、自覚的な体幹鉛直軸が非麻痺側に傾斜しているということを主張しているKarnathなので、別の研究者から見れば違う解釈が出てきそうですが、Pusher症候群の現象としてとらえるのは悪くないと思います。論文で言われているように、ベッドサイドのスクリーニングなどで簡便に用いれそうですし、足底非接地の座位で、非麻痺側の下腿が傾斜している対象者を見たときはPusherを疑ってもいいかもしれません。普通の端座位ではそうでなくても股関節外旋するし、押し付けるので、足底非接地が重要です。

自覚的な体幹鉛直軸: 対象者が自覚的にまっすぐだと思っている体幹の傾きで、正常だとほぼ重力方向。
 

理学療法士国家試験

今日は理学療法士国家試験の合格発表でした。

 まずは合格したみなさん、おめでとうございます。これから理学療法士として新しいスタートをきってください。

 これから勉強していくことは自分のためというよりも、全て対象者に向いてきます。しなければいけないからするのではなく、何も出来ない自分に苛立ち、よりよい医療を提供するために勉強し続けてください。そして、問題意識を持って自分から学んでください。講習会、研修会に行き続けることを勉強しているとは言いません。学校で授業を聞いただけで勉強した気になっているのと一緒です。自分で考え、調べ、それでも分からなければ外に勉強会に出るということを習慣づけてください。

 残念ながら合格できなかったみなさん、今日が新たなスタートです。まだ、気持ちの整理がつかないかもしれませんし、受容できないかもしれません。しかし、理学療法士になることが出来なくなったのではありません。一年後は必ず、それもすぐにやってきます。すぐに新しいスタートを切らないと間に合わないと思ってください。来年が今年より合格率が上がる保証は何もなく、むしろ下がると予想している人は多いです。

 10年後に自分がどうなっていたいのかを描き、いまやるべきことを今日出た結果をもとに受験した方が考えてほしいと思います。

2012年3月28日水曜日

半側空間無視の世界

半側空間無視の対象者というのはどのような世界を感じているのでしょうか?

 重症の対象者の場合は同名半盲という視野の障害と合併してる場合も多いのですが、そうでない場合もあります。つまり、視野は保たれているけれど見えていない状態というわけです。半側空間無視は様々なメカニズムが考えられていますが、現在は空間性(方向性)注意の障害によるものと考えられています。空間性注意というのは簡単に言うと、意識を適切なところに集中させることが出来て、対象としたものに目や身体で行動を起こせるということです。目の前にハエが飛んでいれば、それを見て、場合によっては手で払いのけることが出来るということです。半側空間無視の場合は特に無視側(多くは左側)にそれが行いづらい状態というわけです。脳の右と左の半球(俗にいう右脳、左脳)でそれぞれ右側の注意とか左右両側の注意とか役割分担があるので、脳血管障害になると片側だけ空間性注意の障害が起こるというわけです。

 さて、ここから本題です。視野は保たれているのに、見えていないとはどういうことなのか? それを説明するのに健康な人の視野をおさらいします。
 両目で見ている視野は100°で、片側の目だけなら真横にあるものも見えていることになります。それでは、健康な人は食事をするときに必ず真横に何があるかはっきり分かって食べているでしょうか? また、真横から飛んできたボールは、視野には入っているはずですからよけられるでしょうか?
おそらく、無理ですね。真横どころか斜め前にある柱にぶつかることは健康な人でもあることです。
視野がこれほど広いにも関わらず、ぶつかることがあるのは、視野には入っている(見えている)けども脳で情報がカットされているということです。広く意識するよりも目の前にあるものに焦点を絞り、意識を集中させたほうが効率がいいからなのです。

 簡単に言いきれるものではないですが、半側空間無視では無視側の空間が見えているのに情報が伝達していない(カットされている)状態ということもできます。健康な人でも意識したり、目立つものがあれば視野の端のほうにも注意が行くように、半側空間無視のある方でも促すと気付く人もいます。それが見えているのに見えない状態ということです。

 健康な人が一日中常に真横に何があるか意識していなさいと言われたらどうでしょうか? 視野としては真横まであるのだから見えているでしょうと言われたら? おそらく、すごく疲れて集中力が続かないと思います。半側空間無視のある方に無視側に注意を向け続けさせることは私はそれと同じだと思っています。

 もやもや病で高次脳機能障害を抱える医師の山田規畝子さんは講演でこのように言われていました。「左側を忘れることがあるから注意しなさいと、食事の時などいつも言われていました。しかし、私にとって左側は存在しないのと同じだし、注意するのはすごく労力がいるので、そう言われるのが嫌だった。」半側空間無視のある方に無視側の注意を促すことは、リハビリテーションでよく行われていますが、それはどれほどの労力をその方が要しているのか、言われることに嫌悪感を感じていないかという視点はセラピストにとって無くてはならないと思っています。

 今日は私なりの半側空間無視の方に対する接し方を書いてみました。






2012年3月27日火曜日

ブログ開始

Twitter上では文字数が限られており、文献や活動紹介などはある程度の文字数をもって行いたいので、ブログを初めてみました。

ブログがあるということで、私自身も積極的に文献を読んだりして勉強するきっかけになれればと思います。脳血管障害から摂食・嚥下障害、セラピスト教育にわたるまで広く勉強していきたいと思います。